婚姻費用で父子関係が争われたら? 2023年最高裁決定の判断範囲

公開日: 2026年10月25日

別居中の生活費を決める手続で、子との父子関係まで争われている。親子関係について別の判決が出るまで、生活費の裁判では何も判断できないのでしょうか。

2023年5月17日の最高裁決定は、婚姻費用の審判で、子に対する扶養義務の前提となる父子関係を審理できるかを扱いました。婚姻費用とは、夫婦が分担する婚姻生活の費用です。この事件では、子の監護に要する費用が含まれるかが問題になりました。

最高裁は、当時、戸籍上は婚姻している夫婦の子とされていながら、民法772条による「嫡出の推定」を受けない本件の子について、扶養義務の有無を判断するために父子関係を審理判断することは妨げられないとしました。「嫡出の推定」は、ここでは法律が夫の子と推定する仕組みを指します。別の判決が確定するまでは扶養義務を免れないとして、その関係を審理せず費用を認めた原審判断を、是認しなかったのです。

ただし、戸籍に親子と書かれていても、誰でも婚姻費用の手続だけで親子関係を否定できる、という決定ではありません。「当時の推定を受けない子」という限定があり、2024年施行の法改正とも分けて読む必要があります。

先に確かめる問題と、身分関係そのものを確定すること

裁判である問題に答えるため、その前提となる別の問題を判断することがあります。この前提の問題を「先決問題」といいます。

今回でいえば、婚姻費用に子の監護費用を含めるかを判断するため、父子関係に基づく扶養義務があるか、その前提となる父子関係があるかを検討する、という関係です。

最高裁は、当時の民法772条の推定を受けない子との父子関係については、嫡出否認の訴えによらずに存否を争うことができると説明しました。そして、財産上の紛争で先決問題として父子関係の判断が必要になる場合に裁判所が審理できることは、今回の婚姻費用分担審判でも異ならないとしました。

ここでいう先決問題の判断は、親子関係そのものを確定する別の訴訟の判決と、同じものとして扱わないでください。今回の決定も、両方の手続が同じだと述べたのではありません。

原審は、別の確定判決が出るまでは義務を負うと考えた

この事件では、婚姻費用の申立てについて、最初の審判は申立てを却下しました。その後の原審は、父子関係の存否は別の訴訟で最終的に判断されるべきだと考え、その不存在を確認する判決が確定するまでは、子に対する扶養義務を免れないとしました。

そのため、原審は父子関係の存否を審理判断しないまま、子の養育費に相当する額を、夫が分担すべき婚姻費用に含めました。

最高裁が問題にしたのは、この判断の進め方です。本件の子が、当時の民法772条による推定を受けない子であることを前提に、必要な場合には婚姻費用の手続で父子関係を審理できるのに、別の確定判決がないことだけを理由として審理しなかった点を、法令の解釈適用の誤りとしました。

「別の訴訟があるなら、婚姻費用の裁判は何も判断しなくてよい」という結論ではありません。一方で、この決定から、自分の事件も同じ種類の子に当たるとか、扶養義務がないとかを決めることもできません。

原決定後に提出された資料から、判決の確定も確認した

もう一つ、結論を読む上で外せない事情があります。原決定の後に、父子関係が存在しないことを確認する判決の正本と確定証明書が提出されていました。最高裁は、その資料から、判決が確定していることを確認しています。資料が提出された時点と、判決が確定した時点は同じとは限りません。この裁判書の記述だけで、確定が原決定の前だったか後だったかまでは断定しません。

最高裁は、この確定判決を踏まえ、父子関係に基づく扶養義務を負うとはいえず、そのほかに子の監護に要する費用を婚姻費用に含めるべき事情も見当たらないとしました。

その上で、本件の事実関係の下で申立てを却下した最初の審判は正当だとして、原審の決定を破棄し、最初の審判に対する抗告を棄却しました。抗告手続の総費用は、婚姻費用を申し立てた側の負担とされています。差戻しではありません。

先決問題を審理できるという説明と、提出された資料から確定を確認した身分関係の判決を踏まえた本件の結論は、分けて残したいところです。 どちらか一方を省くと、「先決問題で疑えば、すべての支払いを止められる」という誤った読み方につながります。

2024年の改正後は、推定の対象が当時と違う

2026年10月21日に確認した現在の民法772条1項には、婚姻中に懐胎した子だけでなく、婚姻前に懐胎し、婚姻成立後に生まれた子も、その婚姻における夫の子と推定する規定があります。この点は、2023年決定が前提とした当時の条文と異なります。民法772条

この改正は2024年4月1日に施行されました。改正法附則3条では、新しい772条は施行日以後に生まれる子について適用し、それより前に生まれた子の嫡出推定は従前の例によるとされています。現在の条文を、そのまま過去の出生に当てはめることもできません。民法・令和4年法律102号附則3条

また、嫡出否認については別の経過措置もあります。嫡出推定の対象の話と、誰がどの手続でいつまで争えるかの話を、一つの規則としてまとめないでください。この記事では、個別の親子関係や手続の選択、期間の計算を行いません。

現在の裁判所の案内にも、親子関係不存在確認調停など、身分関係に関わる手続が説明されています。2023年の事案に似た経過を見つけたというだけで、自分がどの手続を使えるかは決めず、書類と時点を示して確認してください。

生活費の話と身分関係の話を、相談のために分ける

編集部が勧めるのは、親子関係をめぐる言い争いを、そのまま日々の生活費のやり取りへ持ち込まないことです。この記事だけを理由に支払いを止めたり、子に説明を迫ったりすることを勧めません。

相談の準備では、婚姻費用の調停・審判に関する書類と、親子関係についてすでに行われた手続の書類を分けてみてください。裁判がある場合は、判断が出たことと、その判断が確定したことも区別します。どの書類が何を証明するか分からないときは、推測で整理せず、そのまま持参して構いません。

相談したいことも、生活費の裁判で何を求められているのかと、身分関係の手続がどこまで進んでいるのかを分けて伝えます。子どもの生活費や日常の支援で今困っていることも、別の相談事項として残してください。家族の私生活を新たに調べたり、公に説明したりすることから始める必要はありません。

過去分の生活費や、手続途中の離婚、合意の見直しについては、婚姻費用を扱う3つの最高裁判断で別の問いを紹介しています。法律相談の利用条件は法テラスの案内で確認できます。

判例の出典

  • 2023年5月17日・最高裁判所第二小法廷決定:裁判所の判例詳細/公式裁判書PDF。主文は1頁、原審の判断は2〜3頁、先決問題の理由は3〜4頁、原決定後に提出された資料による判決確定の確認と本件の結論は4頁。子の出生時期や家族の私生活の細部は省略しています。

判例紹介・制度案内の確認日:2026年10月21日。この紹介は、読者の父子関係や扶養義務を判断するものではありません。

この記事を書いた人

福田

54歳・女性・東京都在住。19年間の婚姻生活のあと41歳で調停離婚を経験。「弁護士費用がもったいない」と自分で調停に臨んだが、財産分与で1000万円近く損をした。この後悔がサイトを立ち上げたきっかけ。法律の専門家ではないが、法務省や裁判所の公開情報をもとに、正確な情報を届けることを続けている。

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