子の引渡しの間接強制、なぜ結論が分かれた? 2019年と2022年の最高裁決定

公開日: 2026年10月25日

子の引渡しを命じる審判はある。でも、実際の引渡しが進まない。「子が嫌がっているから難しい」と言われたとき、その言葉だけで、次の手続の結論まで決まるのでしょうか。

2019年4月26日と2022年11月30日の最高裁決定は、どちらも、子の引渡しを命じる審判に基づく「間接強制」を扱いました。義務を履行しないときに金銭を支払うよう命じ、自発的な引渡しを促す手続です。

二つの決定は、子が拒絶する意思を示しただけで、直ちに間接強制ができなくなるわけではない、という考え方を共有しています。それでも、2019年の事件では間接強制の申立てが却下され、2022年の事件では間接強制を認めた判断が維持されました。理由は、拒絶があったかどうかだけでは読めません。

共通するのは、子への配慮と引渡しの義務を一緒に考えたこと

2019年決定は、家庭裁判所から引渡しを命じられた人は、子の年齢や発達などを踏まえ、子の心身に有害な影響を及ぼさないよう配慮しながら、合理的に必要と考えられる行為によって引渡しを実現しなければならない、と説明しました。

子が引き渡されることを望まない場合も同じであり、拒絶する意思の表明は、それだけで直ちに間接強制を妨げる理由にはならないとしています。2022年決定も、2019年決定を参照して、この考え方を示しました。

ここから「子の意思は無視してよい」と読むことはできません。逆に、「嫌だと言えば必ず執行できなくなる」という判断でもありません。子への有害な影響を避ける配慮と、引渡しを実現するための行為が、同じ説明の中にあります。

2019年の事件では、先行手続を含む経過が重視された

2019年の事件では、間接強制の前に、執行官による引渡しの執行や、人身保護の手続が行われていました。最高裁は、それらの手続で示された判断を含む経過を踏まえ、当時の状況で、子に有害な影響を及ぼさず引渡しを実現するための合理的な行為を、具体的に想定するのは困難だと考えました。

そのような事情の下で、金銭の支払いを命じて心理的に圧迫し、引渡しを強制することは、過酷な執行として許されず、本件の申立ては権利の濫用に当たるとしました。権利濫用とは、ここでは、この事情の下で間接強制を求めることが許されないという判断です。

最高裁は、原決定を破棄し、最初の間接強制の決定も取り消して、間接強制の申立てを却下しました。子の引渡しを命じていた審判そのものを取り消した、という主文ではありません。

2022年の事件では、同じ結論を導くには足りないとされた

2022年の事件でも、子が引渡しを拒絶する言動が問題になりました。原審は、その意思が現在の真意だと認め、子に有害な影響を及ぼさずに引き渡すための合理的な行為を想定するのは難しいとして、間接強制の申立てを却下しました。

最高裁は、この原審判断を是認しませんでした。拒絶の言動があったことだけでは直ちに間接強制を妨げず、この事件で示された経過から、合理的な行為を想定できないとまではいえないとしたのです。ほかに間接強制を妨げる事情も見当たらないと判断しました。

その結果、原決定を破棄し、最初に間接強制を認めた決定への抗告を棄却しました。間接強制の申立てを却下した2019年の主文とは、処分の対象も結論も違います。ただし、2022年の決定文から、その後、現実に引渡しが完了したかまでは分かりません。

この違いを、子の年齢、拒絶の回数、経過した月数の線引きにしてはいけません。数字をそろえれば同じ結果になる、という決定ではないからです。

補足意見の説明を、必須の条件に変えない

2019年決定の補足意見は、執行裁判所が権利や義務の実体的な事項を審査しない原則に触れた上で、先行手続の裁判機関などの判断から、過酷な執行になることが明白な本件では、例外的にその事情を考慮するべきだと説明しました。

一方、2022年決定の補足意見は、公的機関によって子の拒絶意思の明確さが確認されていることが、権利濫用となるための必須条件ではない、と指摘しています。執行手続の審理の範囲にも触れ、監護者変更や請求異議といった別の手続にも言及しました。

これらは、それぞれの裁判官が付け加えた補足意見です。法廷意見と混ぜて「この公的確認がなければ必ず強制できる」「別の申立てをすれば必ず止められる」といった条件表にすることはできません。親や子の行動を評価するための採点表でもありません。

現在の執行制度は、判例当時と分けて確認する

子の引渡しの執行について、民事執行法174〜176条の規定が整備されたのは2019年の法改正で、2020年4月1日に施行されました。2019年4月の最高裁決定が、現在の174条を適用していたわけではありません。また、改正法附則4条では、施行日前に申し立てられた子の引渡しの強制執行事件には、新しい174〜176条を適用しないとしています。判例の年だけでなく、執行の申立ての時点も区別します。

2026年10月21日に確認した現行法には、172条1項の間接強制と、執行官に引渡しを実施させる方法があります。直接的な方法の申立てには174条2項の法定の事由が必要です。常に間接強制を先に行わなければならないとも、無条件に直接執行できるとも説明できません。民事執行法172・174〜176条、令和元年法律2号附則4条

同法176条は、直接的な方法で引渡しを実現する際、子の年齢や発達などを踏まえ、できる限り心身への有害な影響を避けるよう、執行裁判所と執行官に配慮を求めています。現在の概要は、裁判所「子の引渡しの強制執行」で確認できます。

判例に子の言葉を合わせるより、手続の記録を整理する

編集部は、似た判例に近づけるために子の発言を集めたり、答えを引き出そうとしたりすることを勧めません。引渡しが進まないときに、子へさらに説明や説得の役目を負わせないでほしいと考えます。

相談の準備としては、引渡しを命じた審判書など、すでに行った手続の書類、その後の裁判所や執行官とのやり取りを、安全に手元で確認できる範囲で整理してください。子の心身や生活について心配なことがあれば、相談先へ伝える事項として分けておきます。この記事から、自分の事件が権利濫用に当たるかを判定する必要はありません。

この2件が扱ったのは、すでにある引渡し審判を実現する段階です。親権や監護者を新たに決める手続、親子交流の可否とは分けて相談してください。自分で子を連れ戻す方法を示した決定でもありません。

子どもの生活全体の整理は子どもの暮らしと将来の案内へ。個別の執行や別の手続についての法律相談は、法テラスの案内で利用条件や窓口を確認できます。

判例の出典

  • 2019年4月26日・最高裁判所第三小法廷決定:判例詳細/公式裁判書PDF。主文は1頁、法廷意見の理由は1〜3頁、補足意見は3〜5頁。
  • 2022年11月30日・最高裁判所第三小法廷決定:判例詳細/公式裁判書PDF。主文は1頁、法廷意見は1〜4頁、補足意見は4〜5頁。

判例紹介・制度案内の確認日:2026年10月21日。この記事は個別の引渡しの可否や、親子の状況の評価を行うものではありません。

この記事を書いた人

福田

54歳・女性・東京都在住。19年間の婚姻生活のあと41歳で調停離婚を経験。「弁護士費用がもったいない」と自分で調停に臨んだが、財産分与で1000万円近く損をした。この後悔がサイトを立ち上げたきっかけ。法律の専門家ではないが、法務省や裁判所の公開情報をもとに、正確な情報を届けることを続けている。

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