公開日: 2026年10月25日
養育費の支払いが確認できず、財産開示の手続を進めていたところ、相手から「もう払った」と言われた。あるいは、支払ったはずなのに裁判所から書類が届いた。こんなとき、まず確かめたいのは、支払いの有無と、今進んでいる手続との関係です。
2022年10月6日の最高裁決定は、財産開示の実施決定に対する「執行抗告」で、請求する債権がないことや、支払いによって消えたことを理由にできるかを扱いました。
最高裁の答えは、本件の手続では、そのことを執行抗告の理由にはできない、というものでした。ただし、「支払った事実は無視される」「同じ養育費を二重に払う必要がある」という決定ではありません。何を、どの手続で争うのかを分けた判断です。
財産開示は、相手の財産の情報を得るための手続
財産開示は、裁判所で債務者に財産の状況を説明してもらう手続です。養育費の金額を最初から決める手続とは異なります。
今回の事件では、強制執行に使うことのできる養育費の公正証書を持つ側が、民事執行法197条1項2号に基づいて財産開示を申し立てていました。同号は、分かっている財産に強制執行をしても、債権の全額を回収できないことの疎明を求める規定です。
その実施決定への不服申立てが「執行抗告」です。この言葉を、養育費について何でも争える手続、と考えると、今回の決定を読み違えてしまいます。
支払いがあったことと、執行抗告で扱えることは別だった
事件の流れを、手続に必要な範囲で整理すると次のようになります。
- 養育費の公正証書について執行文が付与され、必要な謄本が相手に送達されていた。
- 財産開示が申し立てられ、裁判所が実施決定をした。
- 相手は執行抗告をした後、請求されていた債権のうち、支払期限が来ていた分を支払った。
- 原審は、その支払いによって債権が消滅したとして、実施決定を取り消し、申立てを却下した。
ここで最高裁は、原審とは違う判断をしました。債権が存在するか、消滅したかという問題は、「請求異議の訴え」で判断されるべきだと説明しています。
請求異議の訴えは、債務名義に書かれた請求権の存在や内容に異議があるとき、その債務名義による強制執行を許さないよう求める訴えです。今回の最高裁は、財産開示を実施するか判断する執行裁判所が、その手続の中で債権の存否を審理する仕組みにはなっていない、と考えました。
つまり、支払済みという主張の大切さと、それを執行抗告の理由として扱えるかは、別の問題だったのです。
支払済みという主張をする道まで閉ざした決定ではない
最高裁は、債務者が請求異議の訴えや、それに関する執行停止の裁判の手続で、債権がないこと・消滅したことを主張できると説明しています。その上で、法律の定める裁判の文書などを執行裁判所へ提出し、財産開示手続の停止や取消しを求める道を示しました。
「訴えを出せば自動的に止まる」という話ではありません。停止を求める裁判や、提出する文書まで含めて、確認する必要があります。
この決定の結論は、原決定を破棄し、東京高等裁判所へ差し戻す、というものでした。最高裁で回収が完了したわけでも、差戻し後の最終的な結論まで示されたわけでもありません。
また、この決定が扱ったのは、執行力のある公正証書に基づく、民事執行法197条1項2号の財産開示です。養育費に関するすべての争い、すべての財産開示の理由に、そのまま答えるものではありません。
2026年の手続は、2022年の説明だけでは足りない
2026年10月21日に確認した民事執行法にも、請求異議の訴え、執行停止、停止・取消しに関する文書の規定があります。財産開示への準用については203条が定めています。今回紹介した決定と、現在の条文を分けて確認することが必要です。民事執行法(35・36・39・40・197・203条)
手続の選び方には、新しい制度も関わります。裁判所の案内では、2026年4月から、養育費等について財産開示の申立てと、そこで開示された給与債権の差押命令の申立てをつなげる「ワンストップ執行手続」が案内されています。財産開示だけを希望する場合の案内も別にあります。
この特例に関する経過措置は、2026年4月1日以後に申し立てられる民事執行事件に新しい規定を適用し、それより前の申立ては従前の例によるとしています。ここでは、離婚した日だけでなく、民事執行を申し立てた時点も分けて確認する必要があります。民事執行法・令和6年法律33号附則7条
これは、すべての財産が自動的に差し押さえられる、という制度ではありません。手元の公正証書や裁判所の書類に応じた確認が必要です。現在の流れは、裁判所「養育費等のワンストップ執行手続(財産開示)」と「財産開示」で確認できます。
2022年のこの事件は、こうした新制度や法定養育費について判断した事件ではありません。
相談前に、「支払い」と「裁判所の書類」を並べてみる
編集部からの提案は、相手への反論を考える前に、手元の資料を二つに分けることです。
一つは、公正証書・調停調書・審判書など、養育費をどう取り決めたかが分かる書類と、今届いている裁判所の書類。もう一つは、どの期間の分を、いつ、いくら支払った・受け取ったのか分かる記録です。支払われていないと考える分と、支払済みとされている分も分けておくと、相談したい食い違いが見えます。
安全に確認できる自分の資料で構いません。相手の口座や端末へ無断でアクセスする必要はありません。届いた書類に期限が書かれているときは、その書類を持って、どの手続で何を確認するのかを早めに相談してください。書類の名称と支払いの記録がそろえば、「払った・払わない」の言い合いから一歩離れて、手続の話を始められます。
個別の手続選択や停止の見込みは、この記事だけでは決められません。費用が心配なときは、法テラスの無料法律相談・弁護士等費用の立替の案内で、利用条件や相談先を確認できます。
離婚訴訟で監護費用をどう扱ったかという別の問いは、子の監護費用を扱った2つの最高裁判決で紹介しています。
判例の出典
判例紹介・制度案内の確認日:2026年10月21日。この記事は判例と公的な案内の紹介であり、個別の法律相談や弁護士による監修を示すものではありません。
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