住所を守るDV支援措置、裁判所はどう見た? 2019年高裁判決の範囲

公開日: 2026年10月25日

「住所を知られたくない」と相談していると、「支援措置」と「保護命令」という言葉を聞くことがあります。どちらも被害からの保護に関わりますが、同じ制度ではありません。

今、危険が迫っている場合は、判例を読み終えることより安全の確保を優先してください。緊急時は110番へ。相談先が分からないときは、内閣府のDV相談案内から、DV相談ナビや相談機関を確認できます。

2019年1月31日の名古屋高裁判決は、住民基本台帳事務における支援措置の申出と、警察が付した意見について、損害賠償責任があるかを扱いました。裁判所が接近禁止などの保護命令を出せるか、という事件ではありません。

高裁は、この事件の申出と意見付記を違法とは認めませんでした。その理由には、住所情報が漏れることによる危険と、被害者の安全確保を優先する制度の目的があります。一方で、警察の法的責任が問題になる余地についても留保を付けています。本件の結論と、その留保を一緒に読みます。

支援措置は、住所を探すための制度の不当利用を防ぐもの

住民基本台帳事務のDV等支援措置は、住民票の写しなどの交付・閲覧の制度が、被害者の住所を探索するために不当に利用されることを防ぐためのものです。警察庁の犯罪被害者白書「安全の確保」でも、被害者の情報保護のための取組として説明されています。

これに対し、保護命令は、配偶者暴力防止法に基づき、裁判所が接近禁止などを命じる制度です。内容や要件は、内閣府「保護命令」で別に案内されています。支援措置の話を、そのまま保護命令の要件の話に置き換えることはできません。

この二つを分けるのは、相談の入り口を狭くしないためでもあります。「自分の状況が特定の裁判所の命令の条件に当たるか分からない」という段階でも、まず安全の心配を相談先へ伝えてください。

争われたのは、申出者と公共団体への損害賠償

この事件では、支援措置の申出が違法だという主張に基づいて、申出をした人への損害賠償が求められました。また、警察が申出書に要件を満たす旨の意見を付したことなどが違法だという主張により、公共団体に国家賠償が求められました。

これらは、請求した側の主張です。損害賠償を求めたことを、裁判所が違法行為を認定したことと混ぜてはいけません。

高裁は、原審と異なり、本件の支援措置の申出を違法と認めず、警察の意見付記についても国家賠償法上違法とは認めませんでした。原判決の被告側が敗訴した部分を取り消し、その部分の請求をいずれも棄却。請求した側の控訴も棄却し、第一審・第二審の訴訟費用は、その側の負担としました。

これは当該事件の損害賠償の判断です。支援措置の申出はどんな内容でも適法、警察の行為はいつでも免責、という判決ではありません。また、その後の上訴や判決の確定状態について、この記事では確認していません。

高裁が重視した、被害者の安全確保

高裁は、当時の支援措置の危険性の要件について、身体的な暴力を受けるおそれだけに限らず、それに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動によって、生命や身体に危害を受けるおそれも含むと解釈しました。

さらに、当時の事務処理要領や通達の趣旨について、被害者の住所などの個人情報の漏えいが、生命・身体の危険に直結するおそれを挙げ、安全確保を優先するためだと説明しています。

警察の意見が付されたことから、直ちに相手方の権利や法律上の利益を侵害することになるわけではなく、支援措置の必要性を判断するのは市町村長であることも述べました。本件で警察が行った確認を踏まえ、意見付記に違法な点はないと判断しています。

ここでの「身体的な暴力だけに限らない」という説明は、当時の支援措置の危険性についての高裁の判断です。現在の保護命令の発令要件を説明したものではありません。相談先に伝える内容を、判例の表現へ無理に当てはめる必要もありません。

法的責任の余地まで、なくしたわけではない

高裁は、支援措置の要件に当たるとの意見を付す際、申出者の主張に明らかに不自然で疑問を持つべき点があったなどの事情があれば、それに気付かなかったことについて、何らかの法的責任が生じる余地は残るかもしれない、とも述べています。

この留保があるため、「警察は何も確認しなくてよい」「支援措置に関わる責任は一切問われない」とは紹介できません。ただし、本件では違法性を認めなかったという結論も変わりません。

編集部は、この留保を、相手の居場所を調べたり、支援措置を外させたりするための攻略情報として扱いません。この記事で残したいのは、安全を守る制度の目的と、裁判所が判断した範囲です。

今の制度は、2019年の判決とは別に確認する

配偶者暴力防止法には、この判決の後にも改正があります。内閣府は2024年4月施行の改正を案内しており、現在の法案内には2025年12月30日施行の改正も示されています。2019年の判決文だけで、現在の保護命令や支援の条件を決めることはできません。内閣府「配偶者暴力防止法」

住所情報を守る支援措置の確認と、保護命令を含む安全確保の相談は、制度を分けた上で、支援窓口に現在の状況を伝えてください。この記事は、申出が認められるか、命令を受けられるかを個別に判断するものではありません。

相談では、何を守りたいかを先に伝える

編集部からの提案は、制度の名前を自分で決め切る前に、「住所を知られることが怖い」「接近や連絡に不安がある」といった、安全上の心配を相談先へ伝えることです。

すでに相談した窓口や、受け取った書類があれば、安全に確認できる範囲で整理しておくと、何の制度の話が進んでいるのかを確認しやすくなります。書類や情報を相手へ見せることや、直接会って説明することを前提にしないでください。

DV相談ナビの全国共通番号は #8008 です。相談機関の受付時間内に限られ、通話料がかかり、回線によってつながらない場合もあります。同じ案内から、相談機関の一覧やDV相談+も確認できます。サイト内では緊急時の安全確保と相談先を案内しています。

判例の出典

  • 2019年1月31日・名古屋高等裁判所判決:裁判所の判例詳細/公式裁判書PDF。主文は1頁、請求の区分は1〜2頁、高裁の結論は13〜14頁、当時の危険性の解釈は24頁、安全確保の趣旨と留保は31〜33頁。

判例紹介・制度案内の確認日:2026年10月21日。家族の生活史や被害の細部を再現せず、当時の判決の判断範囲を紹介しています。

この記事を書いた人

福田

54歳・女性・東京都在住。19年間の婚姻生活のあと41歳で調停離婚を経験。「弁護士費用がもったいない」と自分で調停に臨んだが、財産分与で1000万円近く損をした。この後悔がサイトを立ち上げたきっかけ。法律の専門家ではないが、法務省や裁判所の公開情報をもとに、正確な情報を届けることを続けている。

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