精神疾患を理由に離婚できる?2026年改正で「強度の精神病」条文が削除された影響と対応策
公開日: 2026年5月31日
【この記事でわかること】
- 2026年4月1日に「強度の精神病」が法定離婚事由から削除された経緯
- 削除後に精神疾患を理由として離婚するには何を立証すればよいか
- 「婚姻継続困難重大事由」として認められる具体的な事実の例
- 精神疾患を持ちながら離婚を求められている側が取れる対抗手段
- うつ病・統合失調症が絡む離婚で弁護士に相談すべきタイミング
「配偶者がうつ病で、精神的に限界です。離婚できますか?」「統合失調症の夫(妻)と離婚したいのですが、2026年の法改正で難しくなったと聞きました」——こうした相談は法改正後に増えています。
2026年4月1日、民法770条1項4号「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」という法定離婚事由が削除されました。この改正は「精神疾患のある配偶者と離婚することが難しくなった」という一面を持つ一方、「精神疾患があるというだけで離婚を要求される側を保護する」という意義もあります。
この記事では、精神疾患が絡む離婚について「離婚したい側」と「離婚を求められている側」の両方の立場から、法改正後に何が変わり、何ができるかを整理します。
なお、本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別ケースへの法的アドバイスではありません。具体的な対応については必ず弁護士にご相談ください。
このページの目次
旧民法770条1項4号とは何だったか:「強度の精神病」の削除

改正前:法定離婚事由のひとつだった「強度の精神病」
2026年3月31日まで、民法770条1項には裁判で離婚を請求できる「法定離婚事由」として5つの条項が定められていました。その4番目が「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(旧770条1項4号)です。
この規定が根拠となって、配偶者が重篤な精神疾患を抱えており、回復の見込みがないと医師が判断した場合に、裁判離婚が認められるケースがありました。
2026年4月1日施行の改正:4号が削除された
2026年4月1日に施行された民法改正により、旧4号は完全に削除されました。改正後の民法770条1項の法定離婚事由は以下の4つになりました。
| 号 | 改正前(〜2026年3月) | 改正後(2026年4月〜) |
|---|---|---|
| 1号 | 不貞行為 | 不貞行為(変更なし) |
| 2号 | 悪意の遺棄 | 悪意の遺棄(変更なし) |
| 3号 | 3年以上の生死不明 | 3年以上の生死不明(変更なし) |
| ❌ 削除(2026年4月1日) | ||
| 5号(旧5号) | 婚姻を継続し難い重大な事由 | 婚姻を継続し難い重大な事由(変更なし・今後の主要根拠) |
改正前の4号が削除されたことで、「精神疾患であること」を根拠とした裁判離婚の申立ては直接的には認められなくなりました。今後は5号「婚姻を継続し難い重大な事由」で対応することになります。
なぜ「強度の精神病」条項は削除されたのか
3つの問題点が指摘されていた
旧4号の削除には、長年にわたって議論されてきた問題点が背景にあります。
① 人権・差別の問題
精神疾患であることを理由として離婚を認める規定は、精神疾患を持つ人を「結婚関係を継続するのに値しない」と扱うものであり、人権・尊厳の観点から問題があるとされていました。
② 医学的変化との乖離
「回復の見込みがない」という要件は、精神医学が進歩した現代では成立しにくいとされていました。薬物療法や療養環境の改善によって、かつては「回復不能」とされた状態も改善するケースが増えています。「回復の見込みがない」と医師が断言することは現代の精神科医療では困難です。
③ 国連からの勧告
国連障害者権利委員会は、日本の精神疾患を理由とした法定離婚事由が障害者差別に当たると指摘し、削除を求める勧告を行っていました。2026年の改正はこの国際的な動向とも一致しています。
削除によって何が変わったか
削除後も、精神疾患が関係する離婚が「完全に不可能」になったわけではありません。大きく変わったのは「精神疾患であること自体」が離婚事由にならなくなったという点です。今後は精神疾患の有無ではなく、「婚姻関係が実質的に破綻しているかどうか」が問われることになります。
【削除後】精神疾患の配偶者と離婚したい場合の方法

移行先:「婚姻を継続し難い重大な事由」(770条1項5号)
旧4号の削除後、精神疾患の配偶者との離婚は「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)で判断されるようになりました。これはより広い概念ですが、精神疾患があるというだけでは認められません。
裁判所が「婚姻継続困難重大事由」として考慮するのは、「婚姻関係が客観的に破綻しており、回復の見込みがない状態」です。精神疾患の有無だけではなく、婚姻関係全体の状況が審査されます。
「婚姻継続困難重大事由」として認められやすい具体的事実
【参考】認められやすい事実の例と認められにくい事実の例
認められやすい方向
- 長期別居(3〜5年以上)が継続している
- 精神疾患の症状により家庭機能が著しく低下している
- 配偶者への暴力・脅迫(精神疾患に伴う場合も含む)
- 生活の著しい破綻(子どもへの養育不能等)
- 両者ともに離婚を望んでいる
- 医師が「婚姻継続が当事者双方に有害」と判断している
認められにくい方向
- 精神疾患の診断があるだけで、婚姻関係は維持されている
- 治療中で症状が改善している
- 「介護が大変」というだけで婚姻破綻とは言えない状態
- 性格の不一致程度の状態
- 片方だけが離婚を望んでいる
※ 上記は一般的な傾向を示すものです。実際の判断は個別の事情によって異なります。必ず弁護士にご相談ください。
手続きの流れ(改正後の実務)
【フロー図】精神疾患の配偶者との離婚手続き(2026年4月改正後)
協議or調停離婚
→ 離婚調停へ
※ 精神疾患があるという事実だけでは裁判離婚は認められません。婚姻関係の破綻を具体的に立証することが必要です。
執筆者・松本のひとこと
私の離婚は精神疾患ではなく相手の借金問題が原因でしたが、5年間、経済的・精神的に追い詰められる日々を過ごしました。弁護士に相談したとき「これは婚姻継続困難な状態に十分あたる」と言われて、初めて「離婚できる」と実感しました。精神疾患が絡む状況は私のケースよりさらに複雑ですが、「何が離婚事由として認められるか」は弁護士に相談しなければわかりません。一人で判断しようとしないでください。
→ うつ病・精神疾患が絡む離婚の詳細:うつ病の夫(妻)との離婚|2026年4月改正後の判断基準
→ モラハラ・精神的DVが重なる場合:モラハラ離婚|証拠の集め方・離婚手順・慰謝料相場
精神疾患を持ちながら「離婚を求められている側」の対応

法改正は精神疾患当事者を保護する方向にも働く
「強度の精神病」条項が削除されたことは、精神疾患を持つ方にとって保護的な側面があります。改正前は「精神疾患であること+回復の見込みがないこと」を医師が認定すれば、相手から離婚を強制される可能性がありました。改正後は精神疾患であるというだけでは離婚事由になりません。
「離婚したくない」場合の対抗手段
【対応手順】精神疾患があり離婚を求められている場合
① 弁護士に相談する(最優先)
離婚調停・訴訟が始まる前に弁護士を立てる。相手に弁護士がついている場合は特に重要。
② 「婚姻関係が破綻していない」ことを示す
治療が継続していること、日常生活が維持されていること、子育てへの参加などを記録・証明する。
③ 精神科医・カウンセラーの意見書を取得する
治療中であること、症状が管理されていることの医師意見書は、「婚姻継続困難ではない」ことの証拠になります。
④ 離婚条件の交渉(合意するやむを得ない場合)
離婚に同意せざるを得ない場合でも、財産分与・慰謝料・療養支援費等の条件を弁護士と交渉することが重要です。
⚠️ やってはいけないこと
相手に言われるままに離婚届に署名しない。一人で対応しようとすると不利な条件を飲まされる可能性があります。
支援制度の活用
精神疾患を持ちながら離婚問題に直面している場合、以下の支援制度を活用することができます。
- 法テラス(日本司法支援センター):収入が一定以下の場合、弁護士費用の立替制度あり。精神疾患が原因で経済的に困難な状況でも弁護士に相談できます。
- 配偶者暴力相談支援センター:精神疾患に伴う相手のDV・脅迫がある場合は相談できます。
- 精神科ソーシャルワーカー(PSW):治療機関のPSWが離婚問題の支援機関への橋渡しをしてくれる場合があります。
→ 調停でどう主張すればよいかはこちら:調停離婚の流れと中断した場合の対応
よくある質問(FAQ)
Q1. 2026年の改正で、うつ病の配偶者との離婚は完全にできなくなりましたか?
A. 離婚できなくなったわけではありません。「強度の精神病」という法定事由は削除されましたが、「婚姻を継続し難い重大な事由」(770条1項5号)が残っています。うつ病の症状により婚姻関係が実質的に破綻していると認められれば、離婚が成立するとされています。ただし、うつ病であること自体が離婚事由にはならないため、婚姻関係の破綻を具体的に立証することが必要です。
Q2. 配偶者が統合失調症です。離婚したい場合、何を準備すればよいですか?
A. 主に「婚姻関係が破綻しておりその回復の見込みがないこと」を示す証拠が必要とされています。具体的には:別居期間の記録・配偶者の症状により家庭が機能していないことを示す記録・精神科医の診断書(婚姻継続が双方に有害との所見があれば有効)・過去の暴力・脅迫の記録などです。まず弁護士に相談して、個別の状況に応じた証拠収集の方針を立ててください。
Q3. 相手から「うつ病だから離婚する」と言われました。私は離婚したくありません。
A. 精神疾患があるというだけでは2026年4月以降は離婚事由になりません。婚姻関係が破綻していないことを示せれば、離婚を拒否する根拠になります。弁護士を立てて、「婚姻継続困難重大事由には当たらない」ことを主張することが重要です。一人で対応すると不利な条件を飲まされるリスクがあるため、早めに弁護士に相談してください。
Q4. 配偶者がうつ病で、私がDVを受けています。離婚できますか?
A. DVがある場合は「婚姻継続困難重大事由」として認められやすいとされています。精神疾患に伴うDVも、DVの事実として証拠化(録音・診断書・警察相談記録)することで離婚事由の立証に使えます。DVがある場合は安全の確保が最優先です。配偶者暴力相談支援センターや弁護士に早急に相談してください。
Q5. 「強度の精神病」条項の削除は2026年4月以前に係争中の離婚裁判にも影響しますか?
A. 改正法の施行前に提起された訴訟への適用については、経過措置の確認が必要です。施行前から進行中のケースについては、弁護士に個別に確認することをお勧めします。
Q6. 精神疾患を抱えていても、財産分与・慰謝料の権利は守られますか?
A. はい。精神疾患があることは、財産分与・慰謝料・養育費等の権利を失う理由にはなりません。離婚に際して財産分与や慰謝料を不当に低く設定されそうな場合は、弁護士に交渉を依頼することをお勧めします。経済的に困難な場合は法テラスの費用立替制度を利用できます。
まとめ:2026年改正後の精神疾患と離婚に関する基本的な考え方
「強度の精神病」条項の削除は、精神疾患を持つ方の人権保護という観点から行われた改正です。一方で、精神疾患が絡む離婚問題がなくなったわけではなく、「婚姻を継続し難い重大な事由」という枠組みで対応することになります。
法改正後に変わった最重要ポイントをまとめます。
- 精神疾患であることだけでは離婚事由にならない(改正前から実務上もそうでしたが、改正後は条文上も明確)
- 婚姻関係の破綻状態を具体的に立証することが必要(別居期間・家庭機能の著しい低下・DVの有無等)
- 精神疾患を持つ側は、不当な離婚要求に対抗できる(治療継続・生活維持の証拠が有効)
「離婚したい側」も「離婚を求められている側」も、状況が複雑であるほど弁護士への早期相談が結果を左右します。一人で抱え込まず、専門家の力を借りてください。
→ 2026年法改正の全体像はこちら:2026年4月 離婚法改正まとめ|共同親権・養育費・財産分与・保護命令の変更点
→ うつ病と離婚の詳細解説:うつ病の夫(妻)との離婚|2026年4月改正後の判断基準
→ 離婚後の親権問題:ダメ夫に親権は渡さない!母親が確実に親権を取る方法
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本記事は、離婚に関する一般的な情報の提供を目的としており、 個別の法律相談・法的アドバイスを行うものではありません。
記事の内容は、執筆時点の法律・判例・実務に基づいており、 法改正・判例変更等によって内容が変わる場合があります。 最新の情報については、必ず弁護士等の専門家にご確認ください。
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【法改正対応について】
本記事は2026年5月現在の法律に基づいています。
共同親権制度(2026年4月施行)等の重要改正については、
最新の法律情報をご確認ください。
この記事を書いた人
matsumoto
【基本情報】 matsumoto(まつもと)|32歳・男性・東京都世田谷区在住・美容師 離婚経験: 2021年 協議離婚|婚姻期間: 3年|子どもの有無: なし 主な離婚理由: 借金(ギャンブル)・生活費の不払い 【プロフィール】 2021年、競馬で作った500万円の借金が原因で離婚した。妻は弁護士をつけてきたが、自分は「費用がない」「自分が悪いから」と思い込み、一人で交渉に臨んだ。 妻側の弁護士は「財産分与・慰謝料・生活費補填」を一括で請求してきた。何が正当で何が上乗せなのか判断できないまま、合計180万円のサインをした。後から弁護士に相談すると「借金で財産がマイナスの場合、財産分与は発生しない」と教えられた。 「弁護士なし交渉は、弁護士ありの相手と丸腰で戦うのと同じだ」という後悔が、財産分与・借金離婚の記事を書き続ける理由になっている。 【担当ジャンル】 財産分与(特に債務超過・マイナス財産のケース)/借金が原因の離婚/弁護士なし交渉のリスクと限界/浮気回避・夫婦関係 この著者が担当する理由: 借金が原因の離婚×弁護士なし交渉という、他の著者にない経験を持つ。「債務超過での財産分与」という複雑なケースを実体験しているため、法律書には載らない「現場感」を持って書ける。 【情報収集・執筆プロセス】 1. 民法768条(財産分与)・762条(夫婦の財産帰属)を条文・法務省資料で確認 2. 財産分与における「債務超過」の扱いは最高裁判例(昭和46年)を参照 3. 2026年4月民法改正(財産分与の長期化・年金分割等)を確認済み 4. 借金の種類(住宅ローン/消費者金融/ギャンブル)によって扱いが異なる点を記事ごとに注記 債務超過ケースは裁判官の裁量が大きいため、「ケースによって大きく異なります」を必ず冒頭に配置。


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